それが愛ならかまわない

「海外滞在中に昔の男が家に上がり込んで結構なローンを親に組ませて、それを篠塚が被って返済しているって所か。で、二度と会わないと思っていたその男に偶然遭遇して酒の勢いで絡まれた」


 予想通り、椎名は寸分の違いもなく正確に事態を把握している。


「思い出したくもない過去なんだから確認しないでよ」


 口の中に残る刺激を洗い流すようにテーブルの上のコップを手に取り水を飲み込む。人生の汚点も飲み込んで洗い流してしまえればいいのに。
 最近では目の前の仕事をこなす事に必死になり過ぎて、何のためにバイトまでしているのか忘れかけていた。けれどそれで良かったのだ。北見先輩との再会で思い出してしまった怒りと恨みがあれからずっと胸の中にくすぶっていて、必要以上に神経を尖らせる。疲れから少し気が緩みかけていた心に喝が入ったのは良いけれど、正直忘れたままでいられた方が心はずっと平穏だった。


「ローンの残額は?今更伏せても仕方ないだろ」


「何でそんな事椎名に教えなきゃなんないの。どうせあと少しなんだってば」


「じゃあいつまでバイト続けたら完済出来るんだよ」


「だからあと少し」

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