それが愛ならかまわない
少し斜めの角度からの椎名の視線を正面から受け止める。睨み合うような数秒の後、先に諦めて息を吐いたのは椎名だった。
勝った。
「……篠塚の意地張りは相当だな。さっきはやけに素直に謝ってたのに」
「そういう性格なんだから仕方ないでしょ。椎名こそどんどん遠慮がなくなって来てるよね」
北見先輩から解放してくれただけで充分助けられた。ここから先は私が自分の手で人に頼ることなく解決しなくちゃいけない問題だ。
詳細を打ち明けるときっと甘えが生まれる。自分で何とかすると誓っている以上殊更に弱みを曝け出したくはない。
「……よく我慢したな」
ぽつりと呟かれた言葉に思わず椎名の顔を見る。
淡々とした口調とこちらを見ない視線と変わらない表情。だからそれが単に感嘆なのか褒められていてるのかは判別出来なかった。いつだって椎名は私に内側の感情を読み取らせない。
「……もちろん腹は立つよ。あのアホな男にも。それに騙される母親にも。何よりそんな男と一時は付き合ってた私にも。でもこうなったものは仕方ないじゃない」