それが愛ならかまわない
営業用スマイルを浮かべた矢吹さんが長嶺さんにおしぼりを手渡す。
「同じ部署ですね。何、マスター彼と知り合い?」
「学生時代の同級生です。良かったらこれからもご贔屓に」
以前私も貰った名刺が長嶺さんの手に渡る。
隣で微かに椎名がため息をつくのがわかった。
椎名がこの店の事を誰にも教えていなかったのはその居心地の良さを守る為だったんだろう。長嶺さんに知られた事で隠れ家は隠れ家でなくなってしまった。もちろん以前私を連れて来たのも椎名にとっては不本意だったに違いない。
どうフォローしようか考えていると、こちらを見た長嶺さんが爆弾発言を投下した。
「しかしなんか最近一緒にいること多いな。君達つきあってんの?」
「まさか!」
即座に勢い良く首を振る私を見て、長嶺さんは苦笑いし椎名は肩をすくめた。
「来月の同期会の打ち合わせですよ」