それが愛ならかまわない
本当はこの件は石渡君が仕切っているけれど。とりあえず手っ取り早い言い訳として利用しておく。
この手の話は本人の意図がどうであれあっという間に広がってしまうし、変な噂になるのだけは避けたい。
「そっかー、まあ篠塚ちゃん社内の人間とは付き合わないって有名だもんな。児玉とか結構誘ってたのに上手く交わされて告白する前に玉砕したって評判」
「え……やだその話、長嶺さんどこまで知ってるんですか」
「ん?児玉がこっそりカップルシート予約してたのに、篠塚ちゃんが店員に向かって笑顔で『カップルじゃないんで席変えて下さい』って言い放った事なら。その後二人での約束には応じてくれなくなって、しばらくしたら彼氏らしき社外の人間と歩いてたって目撃談と」
児玉さんの件は浅利さんと付き合う直前だったはずだから半年程前の話だ。私は誰にも言っていない。ということは児玉さん側から広まったんだろうか。確認したかったけれど、簡単に情報源を明かしてくれる人じゃない。長嶺さんの情報網、恐るべし。
児玉さんも最初は親切な先輩だった。私も少しでも多くの話を聞きたかったし少しでも多くの部署に顔を繋ぎたかったので、誘われるがまま色んな人と飲みに行っていた頃だ。けれどこういう事がちらほらある上に変な噂になりがちなので色々面倒臭くなって最近は限られた人としか会社外での付き合いをしなくなった。
「篠塚ちゃんていつもニコニコしてるしフレンドリーなノリにもちゃんと乗ってくれるけどガード固いって言うか、一線引く時にはがっつり引いて絶対それ以上立ち入らせないよな」