風が、吹いた
客がまばらになり始め、外が大分暗くなった。お菓子の入っているケースの中も、寂しくなる。
「千晶もコーヒー、飲む?」
テーブルを拭いて、布巾を洗おうとカウンター裏に戻ると、佐伯さんが言った。
「いただきます」
佐伯さんは、私の履歴書や緊急連絡先などから、複雑な事情はよくわかっていた。
だから、月・木・金・土の私の来る日は、夕飯を必ず作ってくれる。
ありがたい反面、やりにくい感じがある。他人なのに、どうしてここまでしてくれるのか、理解できなかったからだ。
「休憩室に入ってなさい。あとはやっておくから。」
淹れたてのコーヒーを差し出しながら、佐伯さんが言った。
「ありがとうございます」
小さくお辞儀をして、受けとると休憩室に入った。休憩室とはいっても、自宅のダイニングキッチンのことである。
テーブルの上に案の定、クラブハウスサンドがラップに包んで置いてあった。
デザートまである。
(ポトフは鍋。温めて食べなさい)
とメモに書いてあった。