風が、吹いた
振り返ると、浅尾が切なげな表情を浮かべているのが見えた。
「浅尾…?」
不思議に思って、名前を呼ぶと、浅尾ははっとしたように、へらっと笑った。
「俺らだって、友達、だろ?」
つい先日まで受け入れることのできなかった存在を、今は、受け止められる気がした。
「…………うん。」
笑って、頷くと、浅尾に背を向けた。
私は、知らない。
記憶の中にはもうなくなってしまった、忘れた自分の笑顔を、この時、取り戻していたこと。
浅尾が、しゃがみこんで、顔を真っ赤にさせてたこと。
それを私と同じように屋上に向かおうとしていた椎名先輩が、見てたこと。
笑顔を取り戻させてくれたのは、椎名先輩だっだってこと。