風が、吹いた
佐伯さんに、奥さんはいないらしかった。
直接聞いたことはなかったが、指輪をしていなかったし、お店兼自宅であるこの場所に、女性の気配はしなかった。
すべての物は、いつも、あるべき所にきちんとしまってあった。
それはいかにも佐伯さんらしかった。
「…美味しい…」
温めたポトフを、口にはふはふと放り込みながら、吊り戸棚をぼんやりと見た。
シンプルな白。
なんとなく、あの森の奥の家を思い出した。