風が、吹いた
封じられた想い
寒い、早朝。
白いヒールを、母が履いている。
お母さん、どこへ行くの?
―「お母さんはね、お母さんの好きな人の所へ行くの。」
お母さんは、私のこと好きじゃないの?
―「そうね。あの人が、私を置いて行ったから。」
お父さんは、私のこと、好きじゃなかったの?
―「そうよ、お父さんは他の人が好きだったの。」
好きって、なぁに?
―「ずっと一緒に居たいと思うこと。」
―「さよなら。千晶。愛してる―」
母は振り向かずに、ドアを開けて、行ってしまう。
待って…
虚しく手が空を掴む。
―それじゃあ私のことは、誰も好きじゃないの?