風が、吹いた
そこはちょうど、貯水槽のある下で。
「ちあきー」
入ってきた時から、気づいていたらしい椎名先輩が、私を上から見下ろしてくる。
「もう、屋上は寒いね。」
残念そうにそう言って、彼は梯子を下りてきた。
「別の場所、探します?」
訊くと、うーん、と首を捻った後で。
「そうだね。」
私の隣に来て、その場に腰を下ろした。
この距離が、私の気持ちを複雑にさせる。
封じたはずの想いの箍(たが)が外れてしまいそうになるからだ。
触れそうで触れない、この距離が、胸を痛くさせる。
その痛みを紛らわすように。
「先輩は、大学受験、しないんですか?」
つい、訊ねてしまった。
言ってしまった後で、しまった、と思ったが、遅かった。
この系統の質問に、彼が答えないことは、重々承知していたからだ。
そして、少なからず、彼の気持ちに波風を立ててしまうことも。
黙り込んでしまった先輩を横目に、隣に膝を抱えるように座ると、心の中で、自分の馬鹿さ加減を戒める。
やがて。
「……佐伯さんには」
ぽつり、と落とされる彼の言葉に、思わず姿勢を正した。