風が、吹いた
最低な男
屋上へと入ってきた彼女は、2年生らしい。ネクタイの色が茶色だった。
「椎名先輩、ちゃんと私呼びましたよね?手紙いれてたの、気づいてくれなかったんですか?」
私の存在には気づいているはずだが、まるっきり無視して、彼女は続ける。
「私、先輩のこと、好きなんです。付き合ってください!」
直球すぎる、言葉で。
高校生っていうものは、人に想いを告げるものなんだなぁと、他人事のように思った。
自分の奥底の何かが、ちくっと痛んだ。
茶色い長い髪は緩やかに波うっていて、色白の手足も華奢で女の子らしかった。
自分に自信があるのも伝わってくる。
こんなに可愛らしい女の子だったら、彼も受け入れるのかもしれない。そう思わずにはいられなかった。
そして、そう感じると、私の心は苦いものでも飲んでしまったかのように、つっかえる。
隣に座ったままでいた椎名先輩は、おもむろに立ち上がると彼女に向き合って私に背を向けるー
彼女が頬を染めたのが、見えたー
「知らない、迷惑、うるさい。どっか行って。」
飛び出してきた言葉に、私は自分の耳を、疑った。