風が、吹いた




「わかってる。あなたのせいじゃないってことは。元から脈なんてなかったの。」




松下はそう言うと、肩を落とした。




「椎名先輩は冷たくって有名だけど、告白する子はたくさん居て。その誰もが必ず皆泣かされて帰ってきたもの。」




さっきの光景が脳裏に浮かぶ。



いまだに信じられない。あの椎名先輩の、あの暴言。



「だけど、中には、好きな子が居るからって断られた子もいたの。」




私の胸が疼く。




「だから、私にもそう言って欲しかった。それなのに、ちゃんと話することすら…してもらえなかった…」




そう言うと、松下の目から、また涙が溢れ出す。




「あの人が、好きな人は一体どんな人なんだろうって、思ってた。きっと幸せだろうなって。それなのに…」




目に涙をいっぱいに溜めながら、キッと私を再度睨みつける。




「友達…ですって?」




美人に睨まれると迫力が違う。蛇に睨まれた蛙状態だ。




「椎名先輩の好きな人って、倉本千晶のことじゃないの?」




ー知らない。



冷や汗をかきはじめた私の前で、松下はもう一度ハンカチで涙を拭う。


そして。



「あの男は、最っ低なのよ」




今しがた愛を囁いたのと同じ口で、彼女はそう言い放った。
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