風が、吹いた
「………そう、みたいですね」
先ほどの椎名先輩を見た自分には、その言葉に激しく同意する権利があると思う。
「入学当初から、そうらしいけど、人間が嫌いだわ。今の3年の女子が彼に告白しようとした時の話、聞いたことある?」
首を振る。むしろ、恐くて聞きたくない。
「先輩に近づいていった瞬間、『それ以上寄るな、阿呆がうつる』って言われて門前払い」
声にならない叫びが、心の中を駆け巡る。
私の反応に気づいているのかいないのか、彼女は続ける。
「その他も、『邪魔』とか『時間の無駄』とか『どいて』とか…」
どれも、告白された相手に言う台詞ではない。
「でも…」
辛そうに、松下は眉を下げる。
「なんでかな、好きだったの。ずっと目で追ってたの。自信も、少し、あった。もしかしたらって」
涙はまだ、乾かない。
「いいなぁ。倉本千晶。」
フルネームで私を呼ぶ彼女は、苦笑いする。
「あなたになりたかったな。」
―誰かを好きになるっていうことは。
―誰かのために心を焦がして。
―何かを犠牲にしてでも、欲しくて。
―それでも、手に入らないもの。
松下の痛みを、自分のことのように感じずにはいられない。