風が、吹いた
自分には抱えきれないほどの重たい沈黙が続いたように感じる。
実際は、ほんの一瞬だったのかもしれないが。
私が答えないと判断したのか、松下は軽く息を吐いた。
「…まぁ、いいけど。椎名先輩に、よっぽど好きな人がいるってことは、確かみたいだし?」
私から視線を逸らし、グランドの方を見つめて、そう言う。風に吹かれる髪を鬱陶しそうに手で払いながら。
「あの…椎名先輩の好きな人って、、どんな人なんでしょうか……」
不毛な質問だということはわかっている。
でも、実は少し、正直に言うと大分、気になっていた。
私の突然発した質問に、彼女は驚いたようにこちらを見る。
そして、目を細めて、
「私が一番知りたいわよ、あほんだらぁ」
と言った。
「ごめんなさい…」
思わず、謝る。
ふん、となおも怒りを含んだ表情で、彼女はもう一度隣に座った。
「椎名先輩の機嫌が比較的良さそうな時を見計らって、告白した子たちはね…」
記憶を引っ張り出すように、口に手を当てて松下は話し出す。
「『俺、ずっとひとりしか見てないから。』って言われたみたい」
想像するだけで、彼女は頬を染めている。
「それだけ、あの最低な男が言うってことは、もう絶対好きな人だーーーって。みんな大騒ぎしてた。」