風が、吹いた
「あの、松下…先輩は、椎名先輩がどうして、この学校に来たか、知っていますか?」
彼がいないのに、彼の事を、誰かに尋ねるのは、後ろめたい気がする。
だが。
「…それがね、知らないんだ。きっと、学校中の、誰もね。」
はっきりそう言い切って、彼女は空を見上げた。
「そうですか…」
がっかりしたような、安心したような複雑な気持ちで、私も空を見上げる。
―椎名先輩は、不思議な人だ。
誰も、彼の事を知らないのに、誰もが、彼を好きになる。
あんなに冷たいのに、人を惹きつける。
あんなに冷たくなれるのに、私には、優しい。