風が、吹いた

「あの、松下…先輩は、椎名先輩がどうして、この学校に来たか、知っていますか?」




彼がいないのに、彼の事を、誰かに尋ねるのは、後ろめたい気がする。



だが。


「…それがね、知らないんだ。きっと、学校中の、誰もね。」




はっきりそう言い切って、彼女は空を見上げた。




「そうですか…」




がっかりしたような、安心したような複雑な気持ちで、私も空を見上げる。




―椎名先輩は、不思議な人だ。




誰も、彼の事を知らないのに、誰もが、彼を好きになる。




あんなに冷たいのに、人を惹きつける。




あんなに冷たくなれるのに、私には、優しい。
< 160 / 599 >

この作品をシェア

pagetop