風が、吹いた
会えない時間



吐く息は、すっかり白くなった。



グレーのピーコートを羽織って、私は自転車に足をかける。



坂道を下ると見えてくる閑静な住宅街。



寒すぎる気温のせいで、目に涙が溜まる。



お気に入りの森は今日も静かにそこにある。



―ただ。



信号待ちしていても、彼は来ない。



松下先輩との告白現場を見て以来、椎名先輩とは、めっきり会わなくなった。



自分から教室に会いにいけるほど、私は、強くなくて。



だって、椎名先輩は、学校一、有名な人で。



私と一緒に居たこと、友達でいたこと、傍に居させてもらったこと自体が、なんだか、全部、嘘だったんじゃないかって思えてくる。



私が教室に会いに行ったところで、彼はいつもみたいに、私の名前を、呼んでくれるだろうか。



呼んでくれなかったら、私はどうすればいいんだろう。

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