風が、吹いた



「まだ、きてない…」




毎朝、同じだった。



彼の場所には、自転車は置いていない。



私も遅刻ぎりぎりな時間に登校しているのに。




「はぁ…」




溜め息を吐かずにはいられない。



不運なことは、重なるもので。



クラスで席替えがあって、私の席は窓際ではなくなってしまい、教室ど真ん中の後ろから2番目。



以前のように登校を待ち伏せして見ている事も、叶わない。



「はよ。倉本。」




浅尾は相変わらず、朝練の後、私を待ってくれているらしい。吉井が余計なこと言ったせいで、複雑な気持ちだ。




「おはよ」




私が靴を履き替えると、当たり前のように一緒に歩き出す。



「こないだ、小テストの結果、返ってきたろー?倉本、点数どうだった?」




にっしっしという変な効果音が似合いそうな笑みを溢す浅尾の点数は、多分思いの外良かったんだろう。




「んー。90だった。」




涙でくっついた目をこすりながら、答える。




「……………」




隣で、肩を落としているであろう彼に、敢えて気づかないフリをすることに決めた。
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