風が、吹いた

いつものふざけた調子じゃなく、真剣な表情で訊いてくる吉井を、今、初めて見た気がする。




「思い当たるのは………告白現場」




私がそう言うなり、あちゃーと吉井が手で自分の額を打った。




「冷徹人間、見た?」




「うん、みた。」




即答した私を見て、吉井はまた額を叩く。




「それだよ、きっと。」




それ、の指す言葉がわからず、ん?と小首を傾げてみた。





「先輩、千晶に会いづらいんだよ。」




「え。なんで?」




私には、吉井の言うことが上手く飲み込めない。




「だって、千晶、初めて見たんでしょ?どう思った?」







「…恐かった。」







でしょ?と吉井が片眉を上げた。




「きっと、合わせる顔がなかったんじゃない?」




そんなもんよ、男なんて。と言う吉井。







ーそうかなぁ。




予鈴が鳴ってしばらくしてから、小澤が入ってくると、吉井は私に背を向けた。



< 165 / 599 >

この作品をシェア

pagetop