風が、吹いた
HRが終わり、放課後。
それぞれが、それぞれの場所へと急ぐ。
部活組の子は部活へ、委員会組の子は委員会へ、バイト組の子はバイトへ、遊び組は繁華街へという具合に。
私はもちろんバイト組。それも、孤立しているので、だれとも組んでいない。
昇降口まで静かに階段を下りて、騒がしい生徒たちの隙間をぬって、靴箱から靴を取り出す。
昇降口は1年と3年が隣同士で南口にあり、2年だけ東口にあった。
その事実を思い出し、昼間の先客が頭をかすめたが、追い払って、うつむき加減で、なるべく周囲を見ないように歩き出した。
が、数歩も行かないうちにー
「椎名先輩!」
直ぐ近くで、同級生の女子たちが、ひとりの男子生徒に声をかけた。
ーあ。
「何か、用?」
呼ばれた3年生は気だるそうに、その集団に返事をした。
うっかり振り返ってしまって、失敗したと思った。
私はすぐに顔を前方に戻して、小走りする。
何故なら。
椎名先輩と呼ばれた彼こそが、昼間の先客だったのだ。