風が、吹いた



「椎名、先輩」




最初に口を開いたのは、私だった。



自分の声が震えたのがわかる。



彼は一瞬罰が悪そうな顔をして俯いたが、すぐに目の前まで来るとー




「どうしたの?」




気遣わしげに眉を下げた。




「具合、悪いの?」




短い問いかけに、こく、と頷く。




「千晶?」




先輩は、今度はしゃがみこんで私を下から覗き込んだ。




「どこか、痛いの?」




ううん、と今度は首を振る。




「じゃあ、どうして、泣いてるの?」





先輩の細くて長い指が、止まらない私の涙を絡めとる。



困ったような、心配しているような表情を浮かべる彼は、私の知っている椎名先輩だった。




「……さ、さびしかった」



重たい頭と、ぐちゃぐちゃの思考の中で、やっとのこと出てきた言葉はそれだけで。



先輩が驚いたように、目を瞠った。




「…会えなくて、、さびしかったんです……」




そう言うと、彼は先ほど浮かべた罰の悪そうな顔をして、視線を彷徨わせる。



そして諦めたように。




「……ごめん」




と呟いた。

< 173 / 599 >

この作品をシェア

pagetop