風が、吹いた
「椎名、先輩」
最初に口を開いたのは、私だった。
自分の声が震えたのがわかる。
彼は一瞬罰が悪そうな顔をして俯いたが、すぐに目の前まで来るとー
「どうしたの?」
気遣わしげに眉を下げた。
「具合、悪いの?」
短い問いかけに、こく、と頷く。
「千晶?」
先輩は、今度はしゃがみこんで私を下から覗き込んだ。
「どこか、痛いの?」
ううん、と今度は首を振る。
「じゃあ、どうして、泣いてるの?」
先輩の細くて長い指が、止まらない私の涙を絡めとる。
困ったような、心配しているような表情を浮かべる彼は、私の知っている椎名先輩だった。
「……さ、さびしかった」
重たい頭と、ぐちゃぐちゃの思考の中で、やっとのこと出てきた言葉はそれだけで。
先輩が驚いたように、目を瞠った。
「…会えなくて、、さびしかったんです……」
そう言うと、彼は先ほど浮かべた罰の悪そうな顔をして、視線を彷徨わせる。
そして諦めたように。
「……ごめん」
と呟いた。