風が、吹いた
「ははは、どんなのかは知らないけど、イメージ崩しちゃって、ごめん。でも…良かったなぁって思ってね。」
そう言うと、佐伯さんは一層優しい顔をして。
「千晶が楽しそうで。」
と言った。
「千晶は、あんまり感情を出さない子なのかと思っていたけど、そうじゃないんだね。最近、本当に良い表情してる。」
「…そう、ですか…」
自分では、自覚がない。
けれど、なんとなく気恥ずかしい。
「孝一くんは、良い子だよ。」
「え?」
もう一度カップを拭こうと俯いた時、佐伯さんがそう言うから、私は直ぐに顔を上げる。
「…どういう意味ですか?」
佐伯さんが何を言わんとしているのか、わからず、訊くが。
「そのままの意味だけど。…仲良くしてあげてね。」
正解は簡単にはくれないらしい。
それでも、佐伯さんが彼の何かを知っていて、その上で、私にこう言ったのであれば。
きっと、何かしら、意味があるんだろう。
ーあと3日学校に行ったら、冬休みに入るというこの頃。
佐伯さんのした不可解な会話の本当の意味を、私が知るのは、もう少し後のことだった。