風が、吹いた
「どうして帰っちゃうの?」
傷ついたような、椎名先輩の顔は、怒っているようにも見える。
「……ちょっと、、用事があって…」
咄嗟に出てくる言葉は、言い訳がましい。
唇を軽く噛みながら、地面を見つめた。
「なんで、途中から避けるようになったの?」
核心を衝くことを恐れずに、彼はいつも真っ直ぐに尋ねる。
黙ることしかできない私に。
「俺、何かした?」
と、首を傾げる先輩。
それでも黙るしかない私。
先輩は何かしたかもしれないし、してないかもしれない。
反対に私が何かしたかもしれないし、してないかもしれない。
ふーと先輩が溜息を吐いたのが聴こえた。
その音に今度は胸が痛み出す。
私には、先輩が何を考えているのか、見えないから。
先輩がどうして私に優しくしてくれるのかわからない。
傷つくのは嫌だから、はっきりさせたくはない。
でも、反対に、私の心はそれじゃ嫌だと暴れだす。
「千晶は、心臓に悪い。」
少しの沈黙の後、苦しげに、彼は呟いた。
「……私に関わるのが負担なら、放っておけば良いじゃないですか」
今の言葉に少なからず自分が傷ついたことが、出てきた言葉でわかった。