風が、吹いた
ぎゅっと下ろしていた手を握る。
「…やっぱり…椎名先輩が私に近づいたのって、単なる同情、ですよね。」
人間は悲しいときでも笑える生き物なのだ。それが自嘲的なものでも笑顔は笑顔だ。
「は?」
彼は眉を顰(ひそ)める。
「私がかわいそうな人間だから、捨てられた猫みたいなもんで、一時の感情で、一緒にいるだけでしょ?」
口は笑っていても、視界は涙でぼやける。
「何言って…」
近づこうとした先輩に対し、私は後ずさる。
本日二度目の盛大な溜息を、彼は吐いた。
「違う」
その言葉と同時に、彼は大きく一歩私に歩み寄り、捕らえる。
一瞬何が起こったのかわからなかった。
苦しい位に、抱き締められている。
自分の心臓が、壊れそうだ。
視界は涙でぼやけたまま。
先輩の鼓動が伝わる。
溢れた涙が頬を伝って、下に零れ落ちた。
「千晶は、猫みたいで」
さらに抱き締められる手に力が籠った。
「近づいたと思うと離れてくから。これでも慎重に行動してるんだよ」