風が、吹いた
あの日のこと
「疲れた」
予備校が終わって、寒さのせいでいっそう黒く見える空に向かって、伸びをした。
「あの調子だと、くらもっちゃん、まだ何があったか、知らないんだねぇ。」
騒がしく挨拶をし合う、同じ学年の子たちの声を後ろに聴きながら、吉井は小さくそう呟くと、駅の方へと歩き出す。
駅まで続く道は、街灯が沢山並んでいるために、眩しいくらいだ。
中でガンガンにかかっていた暖房のおかげで、吹く風がやけに冷たく感じる。
ポケットに手を突っ込んで、暖をとりながら、吉井はあの日の記憶を引っ張り出した。