風が、吹いた
「…良かったぁ…」
くらもっちゃんの声がする。
中を覗くと、くらもっちゃんがこっちを向いている。
背中をこちらに見せている男子生徒は、椎名先輩だろう。
息を潜めて、続く言葉を待った。
「私」
くらもっちゃんの手が先輩の肩に置かれる。
彼女は熱に浮かされているのだから、目はうつろで、焦点が合っているのかいないのか。
間違いなく、意識は、はっきりしていないだろう。
ただでさえ、ぐったりなその状態で、これ以上何を言おうというのか。
「先輩のことが好きみたい」
ー!!
まさか、くらもっちゃんの告白を聞くことになろうとは。思ってもみなかった。
くらもっちゃんは椎名先輩に抱きついているように見えるが、意識を失ったらしい。
呆然とした様子の先輩は、しばらくして。
「千晶?」
「大丈夫?」
と、恐らくこの学校では誰も聞いたことがないような声で、優しく彼女に尋ねた。
彼にしっかり抱きついたまま、彼女は反応を示さない。
「困ったな。」
彼は心底弱り果てたように、呟いた。