風が、吹いた
「タクシー呼ぼうかな。荷物と制服、どうしようか。」
ひとりで、うーんと考え込んでいる。
「あの…これ」
そこで初めて、私は声を掛けて、扉を開けた。
びくっと身体を震わせて、椎名先輩は顔だけ、こちらを向いた。
気まずいのはこっちだ。
「……誰?」
「くらもっちゃんと同じクラスの吉井です。」
制服と鞄を、掲げて見せた。
「ありがとう。助かった」
彼が人に見せる、ちゃんとした笑顔を、普通の心臓の持ち主は見ない方がいい。
さすがの私も、悔しいかな、心臓をバクバクさせながら、中に入って、荷物をテーブルの上に置いた。
「いつから、見てたの?」
よっこいしょ、と千晶を抱きかかえながら、彼が立ち上がり、尋ねてくる。
「……くらもっちゃんが、先輩に告ったとこ、からです。」
そっか、と言った彼は、いたずらっぽく人差し指を立てた。
「俺、千晶のこと送ってくけど、今日見たことも、これからのことも、誰にも言わないでね?先生にも、1人で帰ったって伝えて?」
ぎゅっとしがみついている千晶の手が、目に映る。
「いいですけど。交換条件として、訊いてもいいですか?」
片手に千晶の鞄と制服を持つと、先輩は、ん?とこちらに視線を向けた。
「先輩は、くらもっちゃんのこと、どう思ってるんですか?」