風が、吹いた
保健室のベランダから出るつもりらしい彼は、扉の鍵に手を掛ける。
「俺の我が儘なんだよ。」
背中を向けている彼の表情はわからない。
「どういう意味ですか?答えになってませんけど」
少し苛々した。
「くらもっちゃんのこと、傷つけたら許しませんよ。」
くらもっちゃんは、貴方のせいで、貴方のこと、こんなにも好きになってしまったんだから。
なのに。
「…少しだけで良いから、この子、貸してね。何もしないから。」
先輩はそう言って、外への扉を開けた。
「だからっ、どういう…」
振り返った彼の顔は、痛みに堪えるみたいな、切ない表情をしていて、言いかけた非難の言葉を飲み込んでしまう。
「幸せにはできないけど、大切にするから。」