風が、吹いた
一片の雪とことば
「雪だ」
椎名先輩の声に顔をあげてそれを見ようと試みたが、彼の顎は私の頭の上にのせられていて、叶わない。
「寒い筈だね」
と彼は言うけれど、力強く抱き締められたままの身体は、信じられないほど熱くて、外気の寒さを感じる余裕が、私にはない。
「会えなかった時、千晶、屋上に来てた?」
動きにくい彼の腕の中、なんとか頷く。
先輩は私の答えを聞かなくても、わかっているようだったけれど。
「熱を出したのは、俺のせいだね。」
ごめんねと、擦れた声で、呟くように言った。
ふいに抱き締める力が緩んで、すぐに肩を優しく掴まれる。
できた隙間に、凍えるような空気が通り抜けて、雪が降るほどの寒さを、やっと自覚した。
椎名先輩と、真正面から顔を合わせることになって、額がくっつきそうな程、その距離は近い。
「あの川辺に行こうか」
にこりと彼は微笑んだ。