風が、吹いた
キィ、と停めた自転車から、錆びれた音がする。
ちらちらと降る雪が、街灯に照らされて、黒い川辺にきらきらと輝っているように見える。
すっかり枯れてしまった芝生は色を失って、冬という季節に道を譲ったようだ。
「寒い?」
そう訊く彼の鼻の頭も薄っすらと赤く、息は真っ白だ。
「…平気」
川のぎりぎりまで行っていた椎名先輩は、そう答えた私の傍に走ってきて、自分のしているマフラーを掛けてくれる。
「いいですよ。先輩も寒いでしょ?」
慌てて外そうとする手をやんわりと掴まれる。
「いいの。」
嗚呼、誰かこの鳴り止まない心臓をどうにかしてください。
「…ありがとうございます。」
顔から湯気が出そうなくらい火照っているのを、はっきり感じながら、その場にしゃがみこむ。
よし、と彼は笑って、隣に腰を下ろす。
私の右側が、彼の左側とくっついて、熱を帯びる。
「千晶を送っていったのは…千晶が掴んで放してくれなかったから。」
いたずらっぽく笑って彼は私を見た。
「…なんとなく…それは記憶にあります…」
すみません、と小さくなりながら謝る。
楽しそうに、小さく笑い声を漏らす彼は、やっぱり性格が悪い。