風が、吹いた
「吉井さんていう人が、荷物届けてくれてね。」
吉井のにやりとした笑みが脳裏に浮かぶ。
あれもグルだったのか。
「千晶の家は、前に送っていったことがあるから知ってたし。タクシー呼んだんだ。」
「…重ね重ね、申し訳ありません…」
私はさっきよりもさらに小さくなって、項垂れる。
「理不尽だけど…嬉しかったんだ」
その言葉に、弾かれたように顔を上げると、先輩は川の方へ視線を移していた。
「千晶が、熱出すくらい、俺のことを待ってくれてるなんて、思わなかった。」
一度瞼を閉じて、今度は私を見る。
「泣いてくれるくらい、寂しいと思ってくれてるなんてね。」
思わず赤面して、心許無く、芝生を見つめる。
「正直、俺も迷ってたんだ。千晶に会いに行くか、行かないか。だけど、最初みたいに拒否られたら洒落になんないから…しばらく我慢することにした。」
でも、良かったのかな、結果的には、と続ける。
私は理由がわからず、首を傾げた。
「…千晶、あの日、俺に言ったこと、覚えてる?」
…………何を。
言ってしまったんだろう。
これ以上、どんな恥ずかしいことが私を待ち受けているというのだろうか。。。