風が、吹いた
ただでさえ、騒がしい席に、休みを目前にして、浮き足立っている教室内。
もちろん当たり前のように、廊下も騒がしいわけで。
そのざわめきが一層増したことに、私が気づく筈もなく。
「浅尾なんか放っておいたらいいからさー」
「黙れ吉井。なぁ、倉本、空いてる日ないのかよ」
「あんたこそ、黙りなさいよ。どうせ、予定は補修でいっぱい、なんでしょー?」
「うるせー」
半ばうんざりしながら、2人のやりとりを黙って見つめる。
そこへー
「千晶」
私を呼ぶ、声が響いた。
騒がしかった教室内や廊下が、水を打ったようになる。
「帰ろ」
鞄の持ち手を指にひっかけて、背中越しに持ちながら、彼は周囲の視線などまるでないものかのように、平然とそう言った。