風が、吹いた
「…は、はい!」
驚きを飲み込み、とりあえず、返事をして、そそくさと彼の待つ廊下へと向かう。
俯いて歩くが、周囲の視線が痛い。
階段を下りる辺りで、教室から悲鳴のような声が響いたのが聞こえた。
まだ、誰も居ない昇降口。
「…先輩、今日バイトですよね?」
靴箱から靴を取り出しながら言うと、既に靴を履き替えていた椎名先輩は、うんと頷いた。
「私は、今日はお休みなんですが…」
「知ってるよ。」
優しい笑みに、心が振るえる。
「い、忙しいんだから、先帰っても良かったんですよ。」
そう言うと、彼は少しへそを曲げたのか、口を尖らせた。
「せっかく午前で終わったんだから、少しでも一緒に居たくて。」
「ー!」
先輩の直球な言葉は、私の全てをおかしくしてしまいそうだ。