風が、吹いた






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「驚いたね」



未だ騒ぎが収まらない教室内。吉井が、浅尾に同意を求めるように呟いた。



無言を決め込んだ彼は、悔しそうに目を細めた。



「かっさらわれちゃったね」



椎名先輩が、この教室まで来たことは、今まで一度もない。



だからこそ、今回の一件は、彼らに何らかの進展があったことを印付けるもののような気がしてならない。



「俺の方が、早く見つけたのに」




やっと口を開いたと思ったら、でてきたのは完璧な僻みだった。




「それは、どうかな」




吉井が、曖昧に応える。




「…どーいうことだよ?」



浅尾が、力無く寄っ掛かっていた椅子から離れ、前のめりになる。




「さぁ」




吉井は軽く肩を竦(すく)めてみせてから、鞄を肩に掛けて、いつもの4人組メンバーのもとへ向かった。



その後ろ姿を見つめながら、浅尾は言い様のない苛立ちを、盛大な溜め息にして、吐き出した。




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