風が、吹いた
 


「いただきます」




私の目の前に座り、テーブルに片肘をついて、じっと見守る椎名先輩。



太陽の暖かい陽射しが、部屋全体を満たしているので、夜に来た時よりも、更に広く感じる。




「あのー…そんなに見られてたら、食べにくいんですけど…」




フォークにパスタをくるくると絡ませて口に運ぼうとした手前で、一応声を掛けてみた。




「ごめん」




照れたように、先輩がそう言うもんだから、こっちが恥ずかしくなる。



「いただきます」




気を取り直したように、手を合わせると、彼はそう言って、フォークを取った。


緊張が和らいで、私もパスタを口に入れる。




「…おいひい」




むぐむぐと、余りの美味しさに夢中になって食べながら、彼に言うと、




「良かった」




と嬉しそうに笑った。




彼が淹れてくれたアイスティーの氷が、暖房に負けて、カランと音をたてて溶けた。

< 221 / 599 >

この作品をシェア

pagetop