風が、吹いた

「千晶は、冬休み予定あるの?」




教室でも聞いた台詞で、椎名先輩が訊く。




「佐伯さんのところで、バイト、くらいです。」




独り暮らしを始めてから、初めての冬。




「親戚の人の所には、行かないの?」




言いながら、彼はパンをちぎってバターを付ける。




「夏休みも、帰らなかったし…その方が、いいし……勉強も、もう少しがんばって、特待生として高校に認めてもらったら、少しは楽になるかなって考えてて」



アイスティーに浮かぶ、ミントの葉を見つめながら答えた。




「遊んでるような暇は、ないので」




余裕で、良い成績を取っているわけではない。



必死で努力して、誰にも何も言われないように、私は生きてきた。



その中には、血の滲むような思いもしてきた。



できるなら、母親のように、誰かに縋ることはしたくない。



父親のように、責任を放棄して、逃げる人間にもなりたくない。



そんなエゴが、幼い時から、自分を支配している。一種の強迫観念のようなものでもある。




「…そっか。じゃーさ」




いつの間にか、全て食べ終えていた彼は、考えるように天井を見上げて。




「31日だけ、俺にくれない?」




と言った。

< 222 / 599 >

この作品をシェア

pagetop