風が、吹いた
「千晶は、冬休み予定あるの?」
教室でも聞いた台詞で、椎名先輩が訊く。
「佐伯さんのところで、バイト、くらいです。」
独り暮らしを始めてから、初めての冬。
「親戚の人の所には、行かないの?」
言いながら、彼はパンをちぎってバターを付ける。
「夏休みも、帰らなかったし…その方が、いいし……勉強も、もう少しがんばって、特待生として高校に認めてもらったら、少しは楽になるかなって考えてて」
アイスティーに浮かぶ、ミントの葉を見つめながら答えた。
「遊んでるような暇は、ないので」
余裕で、良い成績を取っているわけではない。
必死で努力して、誰にも何も言われないように、私は生きてきた。
その中には、血の滲むような思いもしてきた。
できるなら、母親のように、誰かに縋ることはしたくない。
父親のように、責任を放棄して、逃げる人間にもなりたくない。
そんなエゴが、幼い時から、自分を支配している。一種の強迫観念のようなものでもある。
「…そっか。じゃーさ」
いつの間にか、全て食べ終えていた彼は、考えるように天井を見上げて。
「31日だけ、俺にくれない?」
と言った。