風が、吹いた
「佐伯さんところは、クリスマス時期はほら、忙しいって言ってたじゃん?きっと俺らもシフトが変則になると思うんだよね。」
そう言って、グラスを口に運ぶ。
「それでも、ほとんど毎日俺は千晶に会うつもりだけど、千晶の時間を奪いたいわけじゃないし。顔見るだけでいい。」
彼は口に手を当てて、考え考え、言葉を選ぶように続ける。
「だけど、1年の最後の日だけは、一緒に居たいな」
それは、独りきりで呟く願望のようで、聴いている私の方が切なくなった。
付き合うとか、付き合わないとか、私たちにそんな会話はなくて。
ただ、お互いが、好き同士だっていうだけで。
そもそも、付き合うってどういうことなのか、私にはわからないわけで。
だけど、もう少し、私がそういうことを知っていて、
自分自身のことしか考えられないような弱い人間じゃなくて、
貴方のことを、あと少しでも、考えてあげられるような余裕があったら。
もう少し、強かったなら。
あんなに後悔しないで、済んだのかな。
貴方との時間を、もっといっぱい、作れたのかな。
貴方は今も、ここに居てくれたのかな。