風が、吹いた
陽の光が、反射して、海がキラキラと輝いていた。
「きれい…」
口をついて出る言葉は、これ以外なかった。
波打ち際を、靴を濡らさないように歩く。
「ここの海、見せたかったんだ。千晶に。」
徐(おもむろ)に彼が言った。
「俺の気に入ってる場所なんだ」
私たちが住んでいる街から、電車で1時間半かかるこの海には、寒いせいか、私たち以外に人影が見当たらない。
「よく来るの?」
足元の貝殻を拾いながら、私が訊くと、
「前はね。屋上の前の、俺の特等席」
にやっと笑う。
「この海岸、小さいし…結構知ってる人、少ないんだ。」
そう言って、彼は自分で拾い上げた貝殻を、海に向かって投げた。
「夕陽が沈む時が、凄くきれいなんだよ」