風が、吹いた

近くに、ちょうど可愛らしいパンケーキのお店があって、昼の時間になるとそこで食べて。



「佐伯さんのコーヒーの方が美味しい」




って先輩が言うから、店員に聴こえやしないかと、冷や冷やした。



暫くそこで、とりとめのない話をして、食べ終わっているお皿を店員さんが片して、かなり経ってから店を出る。



椎名先輩が、格好つけさせてねと言って、ご馳走してくれた。




「ごちそうさまです」




そう言うと、彼は笑って。



「今度は佐伯さんところのが良いね」




と、また失礼なことを言う。





2人で顔を見合わせて、笑って、海にまた向かった。



赤い太陽が、海と重なろうとしている。



さっきは白かった光が、紅に色づいて、波もそれに倣うかのように染まっている。




空はというと、すっと長く伸びた雲とその隙間が、暖色に染まり、全部がひとつの絵画のように、見える。




続くことのない時間を表すかのように、その1枚の絵は、音もなく終わりを告げた。




隣にふと目をやると、彼もこっちを見ていてー




「帰ろうか」




と儚げに、笑った。
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