風が、吹いた
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―時刻は23時55分。
一人掛けのソファに座ったまま、少し体を丸めて、子供のように眠る彼女を、起こさないようにそっと抱き上げる。
黒くて綺麗な髪が、さらりと手にかかる。
伏せられた長い睫毛が、小さく揺れた。
「連れまわしすぎちゃったかな」
自分への反省のように、呟く。
寝室のベットに静かに横たわらせて、布団を掛ける。
端に腰掛けて、飽きることなく、彼女を見つめた。
目にかかる髪を、手で掬って横に流してやる。
今年が、終わる。
来年が、始まる。
忘れないように、彼女の姿を目に焼き付けておこう。
時間が止まればいいのにと、映画の中で繰り返されるような台詞を、もう何度願っただろう。
愛しい人。
ずっと一緒に居られたらいいのに。
ずっと年が変わらなければいいのに。
どうか
昇らないで
太陽。
明日にならないで。
そしたら、幸せにするから。
彼女の額に、キスをして誓うから。
遠くで時を告げる鐘の音が、聴こえた気が、した。