風が、吹いた



私の質問返しに、今度は吉井が唖然とする番だ。



「そうなの?って…」



手で額を軽く押さえて、吉井が黙り込んだ。




ーだって。


必然的に私は今朝の記憶を思い返してみる。



普通。本当に普通。



昨晩、失礼な事に、私はソファで居眠りしてしまい、今朝起きた時には、ベッドに寝かせてもらっていた。初めて入った部屋なのに、居心地が良くて、もう一度寝たい自分を叱咤して、椎名先輩を探した。




モスグリーンのソファに座って、本を読む彼は、珍しく眼鏡を掛けていて、私は部屋のドアに寄り掛かってその姿に暫く見とれていれば。



ふと先輩が気がづいたようにこちらを向いて。




『おはよ』




ふわり、微笑んだ彼に、見とれていた事もお見通しなんじゃないかと思うと、顔が赤くなるのを抑えられなかった。




『…昨日寝ちゃって、しかもベッド取っちゃってごめんなさい』




そして、思い切り、頭を下げた。

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