風が、吹いた
白い家の壁に、椎名先輩のマウンテンバイクもなかった。
年が明けてから、先輩は学校以外ほとんど、佐伯さんのカフェで働いていて、勉強のべの字もしてないように見えたのだけど。
「やっぱり、受験するんだね」
私から注文票を受けとりながら言った、佐伯さんの言葉に、こっくりと頷いた。
「どこ、受けるか、訊いた?」
紅茶の缶の蓋をカチンと閉めて、訊ねられるけれど。
「それが…」
佐伯さんは困ったように笑って、私の言葉を遮った。
「教えてくれなかった?」
情けなさで、涙が込み上げてくるのを我慢しながら、頷くしかなかった。
「…そっか」
それだけ呟くと、佐伯さんは、俯いたまま、顔を上げることのできない私の頭を、ポンポンと、優しく叩く。