風が、吹いた

________________________




椎名先輩と会う場所は、冬の寒さのために、日当たりの良い空き教室に代わった。



渡り廊下の先に続く旧校舎への道を、窓から見える景色に気をとられながら、ひとりで歩く。




―椎名先輩に、どうして欲しいの?



吉井の言葉が蘇る。




ー彼の事が知りたい。



だけど、彼は、訊いても、答えてくれない。



ーずっと一緒に居たい。



でもそれは儚い願いのような予感がする。




―『大学、どこ受けるんですか?』




新学期が始まってすぐ、意を決して、訊いたのに。





彼はいつもと変わらぬ笑顔で。



―『どこにしようかな』



と言うだけで、その続きは、期待できなかった。



彼はー答えないことには、絶対に答えない。



それだけじゃなく。



吉井に指摘されてから気づいたけれど、彼は私に今まで以上は触れない。



それは、曖昧な私たちの関係がいけないのか。



それとも、彼の気持ちが、私と同じ「好き」ではないのか。



あるいはそのどちらでもないのか。


私にはわからなかったし、確かめる勇気も持ち合わせていなかった。
< 260 / 599 >

この作品をシェア

pagetop