風が、吹いた
ー自分じゃ選べなかった、大嫌いな母親から唯一教えてもらった「好き」は、ずっと一緒に居たいと思うことだった筈なのに。
カラという軽い音をたてて、空き教室の扉を開けると、椎名先輩が棚の上に座って外を眺めていた。
「いつもより、遅かったね?」
気付いた先輩は、こちらに顔を向けると、ふわりと微笑む。
もう、好きで堪らなくなってしまったその笑顔に、胸が締め付けられた。
「ちょっと、クラスの子に呼び止められちゃって」
私も笑って、最近作るようになったお弁当の包みを2つ、持ち上げて見せた。
3年生の昼休みのサッカーは、年が明けてから一度も見ていない。
きっと、それぞれが追い込みで忙しいから、仕方ないんだと思う。
なのに、先輩はそのそぶりすら見せない。
本当に、変わらない。
最初に逢った時から。
「む、上手い」
その声にはっと我に返ると、椎名先輩が、私のお弁当箱から卵焼きを奪って口に放りこんだ所だった。