風が、吹いた
「ちょっと、先輩。何盗ってるの。お弁当は同じおかずなのに」
大好きな卵焼きをとられて、頬を膨らませて抗議する。
「千晶がぼーっとしてたのが悪い」
私の怒りなんて何処吹く風で、反省の兆しすら見せずに、彼は言う。
「ふーん…じゃあ」
私は彼のお弁当のから揚げに自分の箸を突き刺した。
「えっ」
唖然とする先輩を尻目に、自分の口の中に放り込む。
「ひどい。俺がそれ好きなの知ってるくせに」
彼は、がっくりと肩を落として嘆いた。
変わらない。
何も変わらない。
むしろ、益々楽しくて、
一緒に居るのはもう当たり前だと思うくらいになっていて、
朝一緒に学校に来て、
一緒にお昼をこうして食べて、
一緒に帰って、
一緒に仕事して、
一緒に夜どちらかの家で、また話して過ごす。
だから、先が見えないなんて、思っちゃいけないんだ。
彼の事は、いつか彼が話したいと思ってくれるのを待っていよう。
時々現れる、未来(さき)がないような痛みは、ただ不安なだけなんだ。
私は置いてかれてばかりだったから。