風が、吹いた
ガンッ
残された浅尾は、苛立ちを紛らわすかのように、壁を蹴った。
「………なんで、言ってねーんだよ」
階段の途中、今しがた怒りをぶつけた壁に、背中を預ける。
言いようのない思いを、溜息に託す。
「あ、おはよー、浅尾じゃん」
声のした方へ、目だけ動かすと、吉井が階段を上ってくるところだった。
「…はよ」
身体中にある苛々を取り繕うこともできないまま、挨拶だけ返した。
「なんか、あった?」
そんな浅尾を見て、傍に来た吉井が、眉を片方だけ上げて、面白そうに尋ねる。
「…なぁ、お前さ、倉本の相談、よくのってるだろ?」
吉井の顔に、さっと緊張が走った。
「くらもっちゃんのことで、何かあったの?」