風が、吹いた

「言っても、あいつは傷つくし。言わなくても傷つく。」




浅尾は、吐き捨てるように言った。




「傷つかないように、できるやつはひとりしかいねーんだよ」




さっきから吉井と合わない視線は、他の誰かを見ているようだ。




「だから」




そう言いながら、立ち止まったままの吉井を置いて、浅尾は階段をゆっくり上り始め、




「傷つけたら、今度は俺がかっさらう」




背中を向けたまま、そう言い放った。
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