風が、吹いた



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昼休み。



誰も待つことのない空き教室へ、向かった。



いつもはうるさい位にまとわりつく吉井も、やけに静かで、



朝から微妙に喧嘩したかのようになってしまった浅尾は、いつもに増して不機嫌だった。




「なんか、ちょっと落ち込むな」




歩きながら、一人言(ご)ちた。



渡り廊下を通って、端っこの教室に辿り着く。



扉を開けると、埃っぽい匂いがした。



使われていない一組の椅子と机は、いつもの彼の定位置で、愛着が沸いてしまった。



その椅子に腰掛けて、窓から見た景色には、灰色の雲が広がっている。



誰も居ないグランドは、寂しさを助長させる。




―『しばらく会えないけど、ごめんね。』




数日前、そう言った彼は、ひどく切ない顔をしていた。


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