風が、吹いた

3月になれば、また会える。



それが今の自分を支える。


何もかも片付いたら、終わったら、そしたら彼はきっと私に話してくれる。



そういう期待も持っている。




卒業式は、3月10日だった。




彼はその次の日18歳になる。



「卒業祝いもしたいし…」



机に片方の頬をくっつけて、呟いた。




「椎名先輩の欲しいものって、なにかなぁ。」




考えてみるが、思いつかない。彼が何かを欲しがっている所を見たことがない。



「喜ぶもの、あげたいなぁ」



目を閉じて、ぼんやりと考える。







遠くで、雨が降り出した音が、する。



弛(たゆ)むことのない、この想いは。


自分のものかと思うほど、熱を帯びていて。


時が経てば経つほど、募っていく。



貴方も同じかな。



同じように想ってくれているのかな。



貴方がどんな人でもいいから、



私は傍に居たいよ。



遠のく意識の中で、雨が激しさを増した音だけが、何故だかはっきりと聴こえた。
< 270 / 599 >

この作品をシェア

pagetop