風が、吹いた
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カランカラン
金の鐘を鳴らせば、佐伯さんがこちらを向いて、
「おかえり」
と笑った。
「学校、どうだった?」
鞄を棚にしまって、エプロンの紐を結びながら、答える。
「少し、寂しかったです。」
はは、と佐伯さんが笑った。
「最近、そればっかりだね。はい、2番」
紅茶の入ったカップを2つと、バタークッキーをのせたトレイを差し出された。
2月になると、佐伯さんのところにも、椎名先輩の姿は見えなくなった。
家を訪ねてみることも考えたのだが、彼の部屋は大体いつも真っ暗で、主の不在を表していた。
「電車とかで、いかなきゃならないところなのかね」
客足がまばらになって、一息ついていると、佐伯さんがぼそっと呟く。
「…どうなんでしょうね」
私も、知らないので何ともいえない。
「受かったら、お祝いとか、できますかね。」
佐伯さんは真横で試作品のチョコレートをナイフで小さく切り分けていた。私はというと、食器を拭いては、棚に戻すという作業を繰り返している。