風が、吹いた



川が、数歩先に流れている。



ーそうだ、今は帰り道だったんだ。




電気のついていない、誰も待っていない家に帰るのがなんとなく嫌で、この川沿いの芝生で横になって空を見ていたんだった。




そしたら眠ってしまった。





ー鞄がどこかに・・・




すぐ傍にあったはずだが、見当たらない。



顔を上げて見回せば、自分の寝ていた所とは少し離れた場所に放ってあった。



鞄からすぐ近くの所にいたと思っていたが、記憶とはいい加減なものだ。




制服をパンパンとはたいて芝生の坂を上り、道に出ると、停めてあった自転車のかごに鞄を入れた。




「急がなきゃ…」




小さく呟いて、ペダルを踏み込む。



犬の散歩をしている人と何度かすれ違う。



夕食の準備をしている香りがしてくる。



温かい電気の色が見える。



私のアパートに続く一本道の先だけ、暗く見える。



光がない。



誰もいない。
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