風が、吹いた
あなたはもういない
誰もいない部屋に、響いていた自分の泣き声は、暫くして、止んだ。
放心しきった私は、髪の毛から滴る水滴が顔を伝っているのか、それとも涙が伝っているのか、わからないほど、頭の中をごちゃごちゃにしていた。
そして、その中で、たったひとつ、はっきりとしていること。
「私、本当に何も先輩のこと、知らなかったんだなぁ…」
思えば。
彼の携帯の番号さえも、私は訊いていなかった。
だって、先輩は、いつも私に会いに来てくれていたから。
いつも、私を見つけてくれていたから。
今、どこに居るのと尋ねることすら、できない。
自分は、自分のことしか、考えていなかったらしい。
これは、そんな私への罰なのかもしれない。
ぼんやりと、空になった本棚を、目でなぞった。
ガタン
という音が、玄関の方でして、反射的に、その方へと顔を向ける。
もしかしたら、という想いが、彼の姿を求めて、縋るように目を細めた。